藍生ロゴ 藍生9月 選評と鑑賞  黒田杏子


昼顔は旅の途上のわれに咲き

(東京都)石川 仁木
 句作に復帰された石川さん。「俳句四季」八月号に精鋭十六句「青の破片」を発表されたり、精力的に活動されています。頼もしいことでとても嬉しく思います。この昼顔の句、いかにも石川仁木の世界。四十八歳の男性俳人の句はなつかしさとポエジーにあふれています。「藍生集」投句の中に、独特の大きな文字。石川仁木とある五句を発見したとき、感動しました。昼顔がこの句のきめ手。



チェロ抱へあぢさゐに道塞がれて

(埼玉県)奥野 広樹
 「藍生」会員としてまた勉強します、という葉書が届き、再入会の手続きをされた事は事務局からの連絡で知っていました。東大オーケストラで岩崎宏介さんはヴィオラ。奥野さんはチェロ。理化学研究所に勤めておられることは分っていました。投句二回目。チェロは続けておられることがこの句で分りました。年齢は五十五歳。岩崎・奥野のコンビで奥会津とか関西、桑名など、私の行くいろいろなところにやってきた遠い日のことをなつかしく、たのしく憶い出します。



玉虫の遺れる母のこの箪笥

(東京都)後藤 洋
 この世を発たれた母上の箪笥の中に玉虫が。発見した息子が即一句を詠む。国民文芸俳句という言葉を実感します。玉虫は季語です。美しいこの昆虫は小箱などに収めて所持すると女性に衣装をもたらすという言い伝えがあり、後藤さんのお母様もその事に従っておられたのでしょう。世界中の人々がその母国語でHAIKUを詠む時代となりましたが、こういう句は日本でしか詠まれません。すてきな句だと思いました。


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