藍生ロゴ 藍生10月 選評と鑑賞  黒田杏子


梅雨の月彼の世の母と同い年

(東京都)今野志津子
 梅雨の月がすばらしい。もともと詩を書いておられた今野さん。いわゆる俳句らしい俳句は作ってこられなかった。この句はいかにも今野さんらしい。今野さんならではの一行。説明も解説も不要でしょう。天上の人となられた時の母上の年齢に自分はことし達していると…。同様の想いを無数の方が抱かれる。そこを梅雨の月がしかと受けとめているのです。話は変りますが、今野さんは「藍生集」校正チームのリーダー。皆さまのご投句は今野さん達の何人かの眼を通して、毎月掲載されているのです。選句・添削などはすべて黒田が担当しておりますが、筆圧の弱い投句、誤字・脱字その他の手書きのハガキの文字をきちんと正し、校正を重ねて入稿。黒田の掲載順位決定を経て、「藍生集」が完成します。上智大学卒業後博報堂入社。故天野祐吉さんの下で仕事をされたこともある方。今野さんの見識と奉仕の精神に敬服感謝しております。一号の休みや遅れも無く、「藍生」がつつがなく刊行され、皆さまのお手元に届いている。その蔭に、今野さんほかの皆さまのお力があることを、ここにあらためて記させて頂きました。



オホムラサキ育て山の子樹に返す

(徳島県)加治 尚山
 昆虫少年。オオムラサキは国蝶。実に美しい蝶として知られています。この山の子は加治さんのお孫さんかも知れません。ずっと観察飼育してきて、成蝶になった折に、森の樹にそっととまらせたその少年の表情がよく見えてきます。その山の子を見守る作者のまなざしが感動的ですね。



夏の夜の夢疎開児われ一年生

(東京都)深津 健司
 昭和十三年生まれの深津さん。東京浅草から疎開。その土地で終戦を迎える年の四月に国民学校に入学、一年生となられたのです。その土地での暮らしが終戦日を迎えた夏の夜の夢の中によみがえったと。深津さんと同年の私には実によく分ります。


9月へ
11月へ
戻る戻る