藍生ロゴ 藍生11月 選評と鑑賞  黒田杏子


卒塔婆に日を経つつあり蝉の殻

(兵庫県)滝川 直広
 滝川さんは代表句を獲得されました。代表句は自分の評価で決まるものではありません。勿論、自分の愛着のある句ではありません。この句は誰の眼にも状況は明らかです。事実は単純。たまたまその蝉が卒塔婆にすがって殻を脱いだということ。卒塔婆という物、さらにその蝉の殻が日を経つつありということで、風雨がくれば、その蝉の殻ははがれ落ちてしまうであろうという事も暗示されています。滝川さんはこの句を投句用紙の五句目に記されていました。滝川さんが長い年月をかけた句作の途で、手にされたジャーナリスティックな一行。私は推します。



水に放てば浮き沈む夏野菜

(栃木県)半田 真理
 実にさりげない句。たくらみの全く無い句。茄子、ピーマン、トマト、いんげん。新鮮な夏野菜が水道の水を浴びて大きなボウルの中で浮いたり、沈んだり。全くたくらみのない素朴な句ですが、料理をするよろこび、生きていることのよろこびが素朴に伝わってくる句で、こころに残ります。



男と女清く正しく蒸し暑く

(大阪府) 森尾ようこ
 愉しい句です。ムシアツイという日本語が外出もままならぬ大阪で、こんなに過不足なく使われたことに感動しました。さすが森尾ようこさん。ますますのご健吟を!!


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