藍生ロゴ 藍生12月 選評と鑑賞  黒田杏子


幻の奥会津産あか南瓜

(福島県)三瓶 美月
 このあか南瓜は奥会津金山町の特産品。まさに絶品のおいしさとのこと。その昔、私は只見川沿いの奥会津九ヶ町村の町起しにかかわり、俳句大会「歳時記の里奥会津」などの立上げと運営、選者などもつとめました。このたび、巻頭作家となられた三瓶さんと出合ったのは「藍生」の福島のメンバーと合宿した温海温泉での勉強会の席でした。三瓶さんの自宅は夜の森の桜で知られる富岡町。住所も夜の森南一丁目でした。福島第一原発の事故で立ちのきを余儀無くされ、何と県内を独り転々とされていたのです。誰ひとり知る人も居ない会津若松市で開かれていた俳句大会をこの人はのぞいてみたのです。たまたま投句した句が入選、独りでアパートに帰ろうとしていたこの人を、会場の入口で「藍生」会員の岡田良子さんをリーダーとする方々が声をかけました。「よかったら、私達の句会に参加されませんか。お時間あれば、これから私の家に寄られてお夕食をご一緒しませんか」と。
 知り合いの全くいない会津若松。この晩から三瓶さんは岡田さん宅の集りに参加。食事会やお茶の会、句会、吟行に参加するようになったのでした。
 二〇一〇年から、私は金子兜太先生の後任として、「福島県文化賞・俳句部門」の代表選者となっていました。この文学賞では、俳句と短歌はひとり五十句応募なのです。私はそののち、三瓶さんにこの文学賞に応募することをすすめました。やっと数年前から三瓶さんの五十句が見られるようになりました。そして本年第七十四回県文学賞「俳句部門」の奨励賞に三瓶さん決定。選考会は福島県の選者おふたりは会場ホテルに、県外の選者は自宅からのオンライン参加で行われました。最終選者は三名。三瓶さんを推すおふたりの熱意はすばらしく、三瓶さんは奨励賞と決定。感動的でした。もしも会津若松市で岡田良子さん達に出合っていなかったら、三瓶さんの今日はありません。



十六夜やいざよひながら独りきり

(福島県)岡田 良子
 三瓶さんに声をかけた岡田さんは毎年「会津身知らず」柿を送って下さいます。今年も大きな箱が届いたのでお電話しました。「三瓶さん、よかったですね。福島民報の朝刊に載っていました」と。お子さん達は東京その他におられ、独り暮し。「私も八十九歳になりました。たった今、「藍生集の投句、投函してきたところです」「お互いに元気で…」



蒟蒻の札を倒して茂りけり

(神奈川県)高田 正子
 吟行句でしょう。蒟蒻畑での作品とおもいますが、正子さんらしい眼の効いた作品。
 ところで、長らく続いてきました「テーマ別黒田杏子作品分類」は今号が最終回。この連載がスタートするや、齋藤愼爾さんからお電話。「高田正子って人は凄いよ。この連載はぜひわが深夜叢書社から一本にさせて下さい。「藍生」は書き手が揃ってる。毎号が読ませる。これはお世辞ではない。いい意味で異色の類の無い結社誌と僕は見てます」。


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