藍生ロゴ 藍生8月 選評と鑑賞  黒田杏子


破顔一笑手話の一団桜山

(岡山県)山本 一穂
 手話の仲間。グループで花の山に。その一団がすべて揃って弾けるように笑顔に。すこし離れてその様子をまのあたりにした作者は嬉しくなって句帳に一句したためる。手話の方達の連帯感。その人達を見つめる作者山本さん七十四歳のまなざし。破顔一笑という四文字の日本語がこれほど効果的に置かれた俳句は無いと思います。作者の人生観の深さと豊かさがこの一行にこめられているのです。



草原や月の出てゐる夏座敷

(東京都)安達 潔
 何とも気分のよいところに作者はどっかりと腰を据え、地酒とその他の名物料理などを頂いている様子。ともかく、草原や。この上五が一句の要です。夏の月、夏座敷ともにある年齢以上の日本人にとっては、忘れがたい大切な記憶の宿る季語であり、言葉です。安達さんも六十九歳。毎月の連載の筆力はいよいよ円熟味を加えてきています。



コロナとて天道虫もじつとして

(埼玉県)奥野 広樹
 岩崎宏介さんの盟友。東大オーケストラで宏介さんはヴィオラ。奥野さんはチェロ。在学中に揃って、黒田杏子の朝カル新宿『働く人と学生のための俳句入門講座』に参加され、「藍生」の創刊会員となられたのでした。「理科学研究所で奥野はノーベル賞をもらうかも知れませんよ」と宏介さん。五十五歳の「藍生」復帰です。かくの如く「藍生」会員は静かに増加。嬉しいことです。


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