藍生ロゴ 藍生7月 選評と鑑賞  黒田杏子


花篝集ひて人の美しく

(岩手県)斉藤 惠子
 一読こころが晴れ晴れとしてきます。花篝というものの美しさと共に、そこに集まってきている人々の幸福感、うっとりと花篝を眺める人々の表情、そこにいま身を置くことの出来た斉藤惠子という人の充足感。すべてが一行十七音字の世界に結晶しています。もうじき惠子さんのはじめての句集『花篝』も出ます。盛岡に暮らす女性医師斉藤さんの人生があざやかに浮かび上ってくる一巻。藍生文庫72番。この句集を以って、私が全力を傾ける会員の句集作成刊行は一たん終結とさせて頂き、こののちは私自身の第七句集、文章集作成に全力を傾けたいと考えます。



蜜蜂のうなりのごとく人を恋ふ

(京都府)植田 珠實
 「そうよ、全くね」と共感の声が挙がる句と思います。長期にわたる自粛の日々。句会をしたり、吟行をたのしんだり、好きなお店で会食したり…。俳人として、人間としてのよろこびが全て失われてしまった日々。上五・中七の言葉の斡旋、さすがと思います。



終日春雨顔のしわ目立つ

(栃木県)植竹 伸一
 実感ですね。同じことを感じていても、なかなかこのように一句にすることはむつかしい。植竹さんの句は常に正直。感じたことをそのまま過不足なく表現。八十五歳の男性の顔がこれだけリアルにいや味なくクローズアップされた俳句、無かったです。


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