藍生ロゴ 藍生6月 選評と鑑賞  黒田杏子


花未だ危ふき国の細き月

(栃木県)半田 良浩

 平成は終り、令和の世となりました。この国を危ふきと感じる人は年代にかかわりなく大勢居られる。私は新聞や雑誌の俳壇をはじめ、いくつもの俳句大会の選者として、そのことを実感しています。この句は半田良浩という俳句作者の想いを、花未だという季語と早春の眉月に托して述べたものでしょう。言いすぎても、言い足りなくてもこのような句は完結できません。想いをさりげなく、ほどよい強さで言い切ったところに共感します。



相槌を打ち春愁の深まりぬ

(東京都)石田 六甲
 六甲さんは奥さまを見送られました。伴侶を失った人のかなしみ、さみしさに勝るものは無い。誰かと対面されていて、相槌を打った。打ったけれど、自分の内に棲みついている愁いは消え去ることはない。却って孤独感は増し、耐えがたい気分となる。その折の心境をここまでさりげなく、かつ深く句に詠み上げられた。六甲さんの長年の俳句修行の賜物。実に見事な深い句だと思います。



弁当に梅のひとひら警備員

(東京都)森 陽舟
 公園でしょうか。梅林でしょうか。ともかく戸外で開いたお弁当。そこに梅花一片。この句のすばらしさはそのお弁当が作者の物でなく、警備員という職業の男性のものであったことです。作者のまなざしの優しさ。観察力の深さ。人間を見る眼のあたたかさがこの句の独自性を生み出しているのです。


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