藍生ロゴ 藍生7月 選評と鑑賞  黒田杏子


幸せや桜のなかにながらへて

(広島県)大出 豊子

 大出さんは寂庵の「あんず句会」にしばしば出席されていました。落ちついた存在感のある句を出句されていたので、句会で選評させて頂くことが多かったのです。投句用紙には九十三歳と記されていますが、その品格のある筆蹟は見事です。私は桜の句を長年にわたり詠み続けてきておりますが、大出さんのこの句のように読み手を包み込むような豊かな句境には未だ至っておりません。因島に暮らす女人のこの句に接して、私もこころがふくらみました。ありがたいと思いました。



塩鮭を食べて家出る桜かな

(神奈川県)石川 秀治
 近ごろ、「藍生例会」に石川さんが出席されるようになり、石川秀治調の作品が出席者に刺激を与えてくれているように思えて私はよろこんでおります。力量のある俳人が一人加わることで、句座の水位は高まるのです。この句、いかにも石川秀治です。解説・説明は不用と思います。よく味わって下さい。



春泥や人間らしく生きてやる

(新潟県)鈴木 靖
 作者は歯科医師。お子さん達の句をよく詠まれる五十二歳の俳人。近ごろこの人の句は変ってきたと思っていたのですが、頼もしいことです。凡太さんや牛後さんに学んで前進して頂きたいと期待しております。


6月へ
8月へ
戻る戻る