藍生ロゴ 藍生4月 選評と鑑賞  黒田杏子


いささかも我をとがめず冬青空

(長野県)氣賀澤友美

 冬青空は山口青邨先生の造られた季語。六音であるから下五に置くと、やや不安定。私はしかしこの句に共感し、氣賀澤さんの現在只今の人生観に感じ入ったのです。信濃の冬青空の美しさを想い、東京女子大「白塔会」での若さ輝く友美さんのたたずまいをなつかしみ、「藍生」創刊号で巻頭を占められたこの人のこの句に到達されるまでの長い道程に敬意を抱いたのでした。いささかも我をとがめず。俳句は理屈ではありません。その人のたましいのかたち。人間性そのものです。



フクシマの便り遠のく霜の朝

(千葉県)渡部 健
 千葉県に避難されてすでに八年。健さんの五十代からの人生はふるさと喪失者の歳月。福島県文学賞を受賞されてもその空しさは埋められるものではないでしょう。健さんの投句に真向うたびに私は励まされ、句を作る姿勢をただされてきました。こののちもそれは変らないと思います。



けふ一日の我ほめて温め酒

(石川県)小森 邦衛
 漆芸家としての人生を生ききっておられる作者。句集をまとめられてのち、いよいよこの人の句は自在に、深く、豊かさを増していると思われます。天職に打ちこむ。その日々の歓こび。これは人間国宝と呼ばれるアーティストであり、俳句作者である人の一行。


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