藍生ロゴ 藍生3月 選評と鑑賞  黒田杏子


木枯や一合の飯炊く匂ひ

(東京都)城下 洋二

 たった一行十七音字。まさに世界で最短の詩型。ここに作者の暮らし、人生がまるごと投影されています。別棟に娘さんも息子さんもそれぞれのご家族と暮らしておられるけれど、夫人を見送られた城下さんは一人暮らし。白米を炊くのは一合。外は木枯。炊き上る匂い。毎日がこうして過ぎてゆく。平穏に。木枯のその音もなつかしく思われるのです。



星の夜の道も師走の匂ひして

(静岡県)岩上 明美
 天城山中のわさび農家。星空の美しきは都会に暮らす人には想像も出来ない。満天の星空の下に道がある。ことしも暮れてゆく。星の夜の道。その道も師走の匂ひとは凄い表現。岩上明美さん近来の秀句。そんな環境に暮らしていても、句作に打ち込んで居なければ、これほどの珠玉の言葉はつぶやけない。



冬の夜半兜太眩く眠られぬ

(福島県)渡部 健
 福島県と書かれていますが、居住地は千葉県。原発避難民のままの暮らし。「兜太TOTA」をこのように読みこんで下さることはありがたい。「藍生」の主宰に加えて、年二回刊とはいえ、この新雑誌の編集主幹をつとめている私には涙のとまらない一句。


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