藍生ロゴ 藍生6月 選評と鑑賞  黒田杏子


兜太師の天に召されて春さむし

(新潟県)斉藤 凡太

 兜太先生を悼む作品がどっと寄せられました。今月は選評句十句すべてが悼句です。
 『語る 兜太』(岩波書店)を凡太さんに贈り、感想を伺ったところ、「先生、あの人はオレたちとちがってエリートだ。同じ戦争体験でも全くレベルが別」と一喝されました。しかし、この凡太さんの作品は実に見事と思います。兜太師であること、天に召されて春さむし。悼句のお手本のよう。ともかく私は涙が出ました。凡太作品の白眉ですね。



梅が香や山河にひびく兜太詩語

(三重県)奥 俊
 山河にひびく兜太詩語はすばらしい。二月二十日長逝の人に梅が香やもふさわしい上五。兜太詩語と詠まれて先生、俳人冥利に尽きますね。山河にひびくもまことに先生にふさわしいと感心します。



梅咲いて来よ庭中に荒凡夫

(愛知県)三島 広志
 この句も面白い。ともかく明るく豊か。「梅咲いて庭中に青鮫が……」の句を踏まえ、一茶に倣って「荒凡夫」という生き方をめざされた兜太先生に共鳴する荒凡夫はみなこの庭に集れと呼びかける句。いかにも三島さんらしいユーモアとエスプリたっぷりの佳吟。


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