藍生ロゴ 藍生5月 選評と鑑賞  黒田杏子


無職と記す雪まつりアンケート

(千葉県)盛田 道子

 長らく歯科医師として仕事を続けてこられた盛田さん。俳句一筋になられた。夫君も歯科医師。お二人で開業してきて、あるところで歩みを変えられたのである。沖縄出身のこの人、雪まつりに。さっぽろではないか。アンケートを求められ、無職と。元気で行動力にあふれている作者を存じ上げているから、余計、この句が印象的だったのかも知れない。七十歳を越えると、大方の男女が無職となってしまう。無職ではるばる雪まつりに参加出来るのは、体力と気力と経済力があるからである。こんな名句が得られたのはめでたい。



閉店告ぐる百貨店塩鮭を買ふ

(千葉県)徳島 妙子
 妙子さんの夫君を私は大昔から存じ上げている。過日、寂聴さんの句集『ひとり』の星野立子賞贈賞式と祝賀会があったが、元講談社の社員で、寂聴さんとご縁の深かった徳島さん、俳号寂嵐さんも授賞会に招かれていて、久しぶりに歓談、懐しかった。閉店近き店、そこで塩鮭を買い込んだ主婦の才覚。妙子さん独特のエスプリにあふれる一行である。



沙羅の樹にやまどり三羽寒の晴

(岩手県)村上 瑩子
 庭の木にやまどりが三羽。何と羨ましい環境。寒晴である。やまどりのように大型で存在感のある野鳥がやってくる暮し。瑩子さんは花巻に棲む。花巻ときけば、私には高村光太郎の独居が想われる。粗末な木造の小屋、木の扉に「光」という文字がくり抜かれていた。沙羅・山鳥・寒晴……。若き日にはるばると訪ねた花巻の風向がよみがえる。


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