藍生ロゴ 藍生3月 選評と鑑賞  黒田杏子


句は無限人生有限年惜しむ

(新潟県)斉藤 凡太

 凡太さんにお目にかかって以来、二十年近い歳月が流れている。一廻り上の寅歳の磯見漁師が出雲崎の民宿「まるこ」の二階の座敷で開かれた「渚」句会に登場された。私は六十歳定年の年。しばらくして新潟日報俳壇黒田杏子選句欄に投句開始。週一回官製ハガキに二句。近年まで、ただの一度も休まず投稿。「藍生」に入会されたのちも実に慎重。今回も四句しか書かれていない。自分で納得できない句は書かない主義とのこと。この句は四句の中の一句目の作品。巧いか下手か。感想はご自由。九十二歳の現役磯見漁師の年末の想い。私は成程と共感を覚えた。



綿虫のしづかにふぶく石舞台

(東京都)原田 桂子
 桂子さんは句材を求めて各地に旅をされているようだ。石舞台というシチュエーション。そんな日はあたりに人もほとんど居なかったのではないか。綿虫といえば私にも忘れがたい出合いがある。四国遍路吟行で訪れた土佐の国分寺。このあたりではめったに見かけることのない綿虫がその日大量に異常発生。翌日の高知新聞に車のフロントグラスを雪のように覆った綿虫の写真が載っていた。故浜崎浜子さんが「黒田先生は奇跡を招ぶ俳人」と喜ばれた。いまも国分寺の礎石や松の枝ぶりが綿虫の乱舞とともに眼に甦ってくる。



肩布団整へなほし帰りきし

(東京都)浅見 宏子
 ケアハウスに入所しておられるご主人を見舞い、最後にベッドに横たわるその人の肩布団をきちんと整え直して自宅に戻られた。肩布団整へなほしの上五・中七の表現に浅見さんの人生観と生き方が投影されている一行。


2月へ
4月へ
戻る戻る