藍生ロゴ 藍生12月 選評と鑑賞  黒田杏子


八月や雲より白きモンブラン

(神奈川県)ジョニー平塚

 一連の作品から作者はモンブラン登頂を果たされたことを知る。六十歳の八月。どんなに嬉しかったことか。この人が日本百名山を登る旅を続けておられることを知っていた。しかし、モンブランである。快挙という言葉が思い浮かぶが、作品世界はおだやかに落ちついている。「征頂」という日本語が浮んだけれど、歓喜は感謝の念に包まれていて、読後感が実にすがすがしく豊饒である。読み手のこころをも明るくここちよくさせてくれる。
 実はこの作者と私は職場の同僚であった。私は俳句と二足のわらじのナマクラな会社員であったが、この人は「広告」編集長として有能なジャーナリストであった。そんな経歴を持つ人が定年の年の真夏にモンブランを極められ、こころにの残る句を詠み上げられた。
 あらためて敬意を表し、句業の達成にも祝福を捧げたいと思う。



名月や波間に浮かぶ句を拾ふ

(新潟県)斉藤 凡太
 凡太さんも九十歳。私の一廻り上の寅歳。七十歳から俳句をはじめ、私と出合ったとき七十二歳。以来「新潟日報俳壇」黒田杏子選に毎週投句。四年前に句集『磯見漁師』刊行。ラジオ深夜便、新日本紀行その他NHKのラジオやテレビに登場。実に有名な現役漁師俳人。「サライ」(小学館)の十二月号にも五頁にわたって登場、多くの人々を励ましている。名月の句は古今にわたり無数にある。しかし、波間に浮かぶ句を拾ふ、という生活を送っている人は他にいない。吟行句ではなく、生活の、仕事の場で詠み上げられた句。実にいきいきとしていて、格調が高い。いずれ「斉藤凡太作百句」をアビゲールさんに英訳して頂くことをお願いしたいと考えている。



この道を墓参の人もサーファーも

(神奈川県)岩田 由美
 墓参の人とサーファーを並列して新鮮かつ存在感のある句。いかにも岩田由美の句である。由美さんの投句を読み、凡太さんの投句を読む。私はほんとうに学ぶことが多い。ありがたいことである。


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