藍生ロゴ 藍生11月 選評と鑑賞  黒田杏子


悔しさも生きる糧なり合歓の花

(石川県)小森 邦衞

 この八月末、小森さんの第一句集『漆榾』が出て、話題を集めている。私が在職中に選者をつとめることになった「日経俳壇」に輪島から投句されてきた。そのご縁で私は日本橋高島屋での小森さんの個展に伺い、お目にかかった。奇しくも去る九月十四日から開催の「小森邦衞展」も同じ高島屋。タイトルは「人間国宝(漆)塗師 小森邦衞展」となっていた。昨年五月には旭日小綬章受賞者となっておられる。自然体で偉ぶったところの微塵も感じられないアーティスト小森さんの七十二歳のつぶやきとしてこころに残った。ちなみに句集巻末の句、つまり揚句は「生きかはりても漆塗りたし除夜の鐘」である。創刊二十六年周年、私達の「藍生」にはすばらしい仲間が増え続けている。



炎暑など背負ひ投げして畑を守る

(茨城県)植木 緑愁
 緑愁さんは闘志の人である。煙草畑を守っている。葉たばこに炎暑は不可欠。文字どおり汗みづくになって働くのだ。上五中七の言葉はまさに植木緑愁のもの。このような人々によってこの国の農業は護られているのだ。



余生とは爽やかに稲育つ日々

(新潟県)山本 浩
 稲作の未来について山本さんは楽観していない。そのような作品が新潟日報俳壇への投句にしばしば見られるのである。しかし、この句の明るさ。稲育つ日々。と止めて田んぼに生きる人生の愉悦感を詠み上げておられる。そしてともかく山本浩さんの新米のおいしさには誰もが言葉を失うのである。


10月へ
12月へ
戻る戻る