藍生10月 選評と鑑賞 黒田杏子 |
ひとつづつ屹立夏至の午後の雲 (北海道)高橋 千草 |
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夏至の日の空を仰いでいる高橋千草さん。そのたおやかにして凛としたたたずまいが眼に浮かぶ。ひとつづつ屹立。雲のかたちがよく見えてくる。北海道は札幌のことしの夏至の日。よく晴れていたのであろう。雲のありさまをこのようにしっかりと見つめて過不足なく詠み上げた句も珍しい。作者の詩人としての眼と心のたしかさに敬服する。 |
雲を抜け光つらぬく雲の峰 (大阪府)名本 沙世
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名本さんも雲を詠まれた。創刊時より参加されたこの人にお目にかかったことはない。ずっと車椅子で生活。勤めも続けてこられている。お若いと思っていた沙世さんも四十九歳、見事な作品を創られる人となられた。この雲の峰の神々しさ。その美しさに打たれている作者の精神のかがやきが表出されている。 |
日盛のしづけさ太陽の冥さと (東京都)野木 藤子
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日盛は言うまでもなく、一日のうち、日のさかんに照る時。のこと。つまり日のさかんに照る時、日の照る最中、多くの夏の午後にいうとある。野木さんは古典にもくわしく、言葉を厳密に使われる。まさに過不足のない表現で一行をあざやかに構築されている。 |
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