藍生ロゴ 藍生8月 選評と鑑賞  黒田杏子


虹の橋被爆死の友渡りくる

(東京都)大岩旅人木

 旅人木は俳号。私がこのペンネームを差し上げた。本名は孝平。八十四歳である。去る五月二十七日オバマ大統領が広島を訪問。平和への氏の行動とスピーチはNHKほかのテレビで報道された。この日、東京渋谷のNHK放送センタースタジオに居られ、おだやかな語り口で冷静かつ沈着にコメンテーターをつとめておられた丸顔の背広姿の男性がこの句の作者である。同級生が大勢被爆死されている。「沼杏」句会事務局長。アビゲールさんを沼津御用邸の句座に誘ったのもこの人。大岩さんが居られなければ、私はアビゲールさんとこの世で出会うことはなかった。



春来たる宇宙の果てより大地より

(新潟県)山本 浩
 山本さんもついに傘寿の人となられた。米づくり一筋の人。小千谷は豪雪地帯である。四半世紀近くこの人の作品を新潟日報俳壇で読みつづけてきた。春を待つ。そのこころの深さが土に生きる人の言葉で一行の俳句に構築されている。巧拙を越えて実のある句だ。



帰還せぬ覚悟の吾子が柏餅

(福島県)渡部 健
 日経俳壇・福島県NHK学園の通信講座などの場でこの人の作品にしばしば逢ってきた。「藍生」に入会されたのはごく最近である。昨年は福島文学賞(一人五十句)にも挑戦され入賞されている。六月十一日・十二日に開催された「福島大会」に出席されたので、私はこの人にはじめてお目にかかった。福島県と書かれているが、現在の住まいは千葉県。三・一一以来ずっと避難されたまま。青森から出席の草野力丸さんが「大会でさまざまな会員の方に会って感激した。しかし、「原発難民」という人には心が痛んだ。大変な人生の人がいることを知った福島大会。勉強になりました」と。


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