藍生ロゴ 藍生7月 選評と鑑賞  黒田杏子


花冷の石のおまへに会ひにゆく

(東京都)城下 洋二

 亡き人の墓に詣る。この世に存えている者の行動はさまざまに句に詠まれている。作者は墓石となった夫人に会いにゆくのである。石のおまえにという中七が城下夫妻の精神的絆の深さ、学生時代に出会って以来の愛と友情のかたちを物語っている。  選者としてさまざまな句に会う。その一句に思わず手を合わせたくなる句があるけれども、城下さんのこの一行はまことに尊い。人間の無二の出合いを伝えてくれる作品として深く心に刻まれた。



初花や生まれなかつた子のひかり

(広島県)秋山 博江
 初花の句として異色の作品ではないだろうか。初花の句は毎年詠まれており、それぞれに発見もある。しかし、秋山さんのこの一行はこれまで誰も詠まなかった世界を提示している。作者はエッセイストでもあり、常々ありきたりでない俳句を詠みつづけている人。さきの城下さんの句に出会い、また秋山さんの広島発のこの作品にハッとする。第二次「藍生」は確実に飛躍前進していると実感できることをよろこんでいる。



主婦ら拝す市場の中の甘茶仏

(東京都)鎌田 実樹
 面白い句である。マーケットの中に花御堂がしつらえてあり、甘茶仏が祀られている。買物籠を手にした主婦たちはみなその小さな御像を拝するのである。実樹さんも意外の出会いに驚きつつ、拝したのである。


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