藍生ロゴ 藍生6月 選評と鑑賞  黒田杏子


春愁帰還待つ間に白髪増ゆ

(福島県)渡部 健

 作者は現在千葉県香取郡に暮らしておられる。福島県から移住して五年目の春。六十一歳である。五十代半ばにこの人の人生は激変。帰還の途を探りつつ還暦を越えた。この作者の名は日経俳壇黒田杏子選句欄への投句者として知っていた。そののちNHK学園通信講座の選者となった私は再び渡部作品に出合う。二〇一五年度の福島県文学賞(五十句)にも応募され、準賞を受賞された。「藍生」に入会されたのはごく最近である。福島県民として投句されておられる心情を想う。



春寒しどんな顔して死ぬのだろう

(新潟県)肥田野 由美
 肥田野さんといえば、松島での全国大会の開催が絶望的となった折、新発田での大会を引受けて、すばらしい集いを実現して下さった女性として、印象深い方である。そののち、この人は東京に出てこられ、新しい仕事にチャレンジされたりしたのち、又新発田に戻られた。郷土食の研究家であり、句会のリーダーであり、小学校で俳句の指導もされている。意欲があり有能の人に頼られる女性。由美さんがふと思った一行。共感を呼ぶ一行。



初夢を少し脚色して記す

(新潟県)飯塚 白山
 白山さんは元気である。ステンレス工業の社長をやめて、夫人の反対を押し切って、手打ちそばの店をはじめた。五十歳からのそば打ち修行は会津で。寝る間もないほどの修行期間を経て、健康をとり戻し、アーティストとしても活躍。いまが幸せという七十五歳。日記にということであろう。少し脚色して記す。白山の面目躍如。ともかく、この人の打つそばのすばらしさ。日本一である。


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