藍生ロゴ 藍生2月 選評と鑑賞  黒田杏子


星の声風の共鳴薄紅葉

(岩手県)加藤 香廉

 このみずみずしい感性とポエジー。薄紅葉の座五が実に効果的である。作者はさきに「東西南北」の執筆者として、文章力も秀れていることが実証されている。盛岡在住のまだ三十代の若き女性医師。何人も居られる盛岡の女医グループの中でも断然若いひとりである。さざめく星のひかりと風の音。みちのくの澄み切った空気が伝わってくる。こののち愉しみな若手作家のひとりである。



星またたけり柊の香のまうへ

(神奈川県)中村 朋子
 中村さんはベテラン作家である。しかしこの人の感性もまた非凡である。柊の花の真上に星がまたたいているのではない。柊の香のまうへと言い切ってこの句決まった。巻頭の加藤さんの句と似ているところもあるが、やはり中村朋子は独自の世界として屹立している。独自性の強い作品が独りよがりにならないためには例会などの大きな句座に出て自己の世界を客観的に眺めることも有効だ。この作者の例会への出席を頼もしく見守っている。



賜りてうるしを塗りぬひよんの笛

(石川県)小森 邦衞
 深津健二さん丹精のひょんの笛。人間国宝輪島の塗師小森さんに漆をかけられて、その存在価値がいよいよ高まった。ひょんの笛の句はいろいろと詠まれているが、こんな句は小森さんしか作れない。決定版である。


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