藍生ロゴ 藍生1月 選評と鑑賞  黒田杏子


一言の人殺めしか曼珠沙華

(石川県)小森 邦衞

 時を経て気付くことがある。あのときの自分の言葉がその人にとって致命的だったのではなかったかと。その時は深く考えていなかった。しかし人生の時間を重ねてきて、思い到るときがある。小森邦衞という人は温厚な人である。だからこそいまにして想うのであろう。曼珠沙華が動かない。



生きてよし死ぬこともよし秋日和

(島根県)若月 恭子
 この若月さんの境地。豊かである。秋日和に作者の到達した人生観が過不足なく表明されている。生きてよし死ぬこともよし。このような大らかな境地に立てる人こそ長命を保たれる若々しい人なのだと思う。



年経たる月見の筵地に親し

(兵庫県)村上 敏子
 村上さんは矍鑠として農業に打ちこむ。ご主人を見送られてのちかなりの歳月が流れている。月を賞でる人、月を祀る人は多い。しかし、この句の核は月の筵である。月の筵も年を重ねているのだ。その筵を庭に敷く。地に親しとはすばらしい表現。村上さんのお月見こそ本当のお月見なのだと知らされる。


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