藍生ロゴ 藍生10月 選評と鑑賞  黒田杏子


かたつむりにも横顔のありにけり

(大阪府)もりおようこ

 面白い、巧い句だなあと朱まるを付けてよく見直すと、余白欄に「ごぶさたいたしました。また勉強させて下さい。結婚もしました」とたかぎちようこさんであった。久しぶりに対面したようこ作品は魅力的だ。かたつむりが一句の中に息づいている。アーティストでもあるこの作者ならではの秀句。写生句などという手あかのついた区分けとは無縁の一行詩の魅力。アビゲールさんに英訳とコメントをお頼みしてみたい。



行きてまた行き着けぬ夢梅雨深し

(埼玉県)寺澤 慶信
 重く長い闘病期を耐え抜いた人の句である。私はこの作者に「ともかく句日記的に作句を持続すること」をお願いした。会員の中には闘病者が何人もおられる。若い人から高齢の方まで。そのすべての人に私が手紙を書くことは不可能。寺澤さんは藍生創刊以前からの句友であり、何度か手紙を書いた。この人は闘病という試練の中で謙虚になられ、その作品世界を深め、ひろげつつある。



戦なき日本の国のさくらんぼ

(福島県)小山 京子
 この人とのつき合いは長い。七月に私は招かれて山形県寒河江にゆき、「さくらんぼ俳句大会」の選者講師をつとめた。ボタニカルアーティストの杉崎文子さんのご案内で見事なさくらんぼ園にもご案内頂き、さくらんぼという果実を深く知る機会を与えられた。小山さんも同道された。八十代に入られた小山京子の作品として存在感十分の一行。


9月へ
11月へ
戻る戻る