藍生ロゴ 藍生8月 選評と鑑賞  黒田杏子


猛烈な春愁消さず靴を買ふ

(静岡県)勝俣 冬美

 もともとこの人は短歌を作っていた。沼津の高校で教壇に立っていて、生徒たちに俳句や短歌の指導もしてきた。俳句は短い。たまたま東京女子大同窓会静岡県支部の責任者になられたりしたことから、「白塔会」に参加。現在は「藍生」の東京例会にも毎回息せき切って締め切り時間ぎりぎりに駆け込んでくる。パワフルな三十代。春愁に悩まず、それを抱えこんで靴を新調したところ、いかにもこの作者らしい。沼津生れ、沼津育ち。産土の地沼津を愛することに於て誰にもひけをとらない。本名文子改め俳号冬美となった。



何も語らず憲法記念日昭和の日

(栃木県)半田 良浩
 作者自身のことか、身の廻りの他人のことか。そのどちらでもこの句は成り立つ。現代がここに切りとられている。考えていても、思っていても態度で表明しない。不気味である。憲法記念日と昭和の日が並んでいることもこの句の存在感を高めている。



妙高の雪のまぶしき桜かな

(兵庫県)中岡 毅雄 
 去る四月十二日の「藍生にいがた」主催「高田の夜桜吟行会」に中岡さんははるばる兵庫県三木市から参加された。電車をいくつも乗り継いで上越高田まで。ともかく日本海側に出れば桜は雪嶺と輝き合う。私は四月十五日のNHK金沢大会での兜太先生との公開対談もあったので、今年は日本海側の桜をたっぷり堪能することが出来た。中岡さんの本領が発揮される日も近い。


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