藍生ロゴ 藍生7月 選評と鑑賞  黒田杏子


赤飯を炊きて祝ひぬ復活祭

(ケルン)花房 央子

 復活祭にお赤飯。花房さんのドイツでの暮らしも長い。東京芸大を卒業してのち、声楽の勉強にドイツに行かれた。ドイツ人の学者ラテン文学研究家のプロフェッサーと結婚。私は二十四年前に当時、ケルン日本文化会館館長でいらした荒木忠男氏に招かれ、文化会館で、HAIKUについて講演をした。その晩にフェルトマン家の夕食会に荒木館長と招かれ、央子夫人のお料理をごちそうになり、親しくお話をする機会を得た。この席には当時ケルンに住んでらした今井わこさんもいらして荒木氏(のちヴァチカン大使)のお心づかいにより、同席した者はみな友情に結ばれた。央子さんが句作をはじめられたのはずっと後のことであるが、四半世紀前のあの晩、日本料理とドイツ料理を愉しませて頂き、国際結婚と料理の関係をしみじみと考えた。この句、フェルトマン央子花房さんの面目躍如なりと感銘を受けた。



青天や老いて爆心地の桜

(長崎県)森光 梅子
  戦後七十年、すなわち被爆七十年である。長崎に棲み、毎月句友と吟行会を重ねている作者。九州一円はもち論、四国・関東・東北も訪ねておられる。爆心地の桜の木、老木となっている。雲一つない青空。森光さんの俳句は近ごろ省略が効いてきて、一句の深さ、奥行がいよいよ増した。傘寿を迎えて尚テニスの現役プレーヤーとしても活躍を続ける。



月蝕を待つ山椒の芽のほとり

(長野県)氣賀澤 友美
 月蝕の句が数多く寄せられた。この句、山椒の芽のほとりがいい。私が句作に立ち戻り、白塔会に復帰した頃、友美さんは在学生。「藍生」創刊号の巻頭作家でもあった。


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