藍生ロゴ 藍生5月 選評と鑑賞  黒田杏子


静けさといふ幸せも雪一ト日

(熊本県)磯 あけみ

 雪に包まれて一日をひとり静かに過ごしている女性。豪雪地ではないが熊本にも雪は降る。その静謐な時間と空間をこよなく幸せであると感じている作者は長らくこういう刻を体験することなく生きてきた人である。その店が閉じるとき、朝日新聞にも載った有名店「カリガリ」のマダム。六十代の半ばにつれあいを見送り、いまは自宅で記憶と思い出の日々を振り返り、自分自身を見つめている日々。素朴に率直に詠まれた句はすがすがしい。



寒梅の小さし小さきものみな美し

(広島県)土手 民子
 作者八十四歳。昔、北海道から日経俳壇黒田杏子選句欄に投句されていた記憶がある。独自の人生観・美意識のある方と共感を深めてきた。広島からの投句はいつもこころのこもった作品で印象深く励まされてもきた。この句上手さんの意見として納得する。



ひと日かけ雪の金閣見に参る

(滋賀県)永井 雪狼
 雪狼さんも八十六歳になられた。淡海・三井寺での大会を全力を挙げて成功させて下さったことに皆感謝している。この日、雪狼さんは白雪に覆われた金閣寺吟行を思い立ったのだ。私も訪ねたことがある。雪が金閣寺を文字通り荘厳するのだ。日光の陽明門も雪を被ると普段の十倍は美しい。いま雪狼さんは高野の山陰石楠先生の「金剛」に毎号健筆をふるっておられる。卒寿に向かう雪狼さんの句作への情熱はおとろえを知らない。


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