藍生ロゴ 藍生4月 選評と鑑賞  黒田杏子


正面に富士まつすぐに初電車

(東京都)二宮 操一

 初電車の句として実に気持ちのよい句である。ことし八十六歳になられる二宮さんは東京生まれ。一中一高東大朝日そして「藍生」の初代の事務局長をつとめられた方である。還暦以後の人生を私達の結社と共に歩まれ支えてきて下さった方である。一中では野球部、朝日では組合の仕事もなさったと伺っている。該博な知識と教養のある先達として、私達を導いてきて下さっている。初電車に乗って初吟行に出かけられる行動力と体力。「藍生」の創刊二十五周年は二宮さんのような方々のお力によって、今日に到っていることをあらためて思いかえし、感謝を捧げたいと思う。



寒時雨千空句碑の底光り

(青森県)南 美智子
 成田千空先生の句碑である。五所川原に居を構え、中村草田男門としての生涯を見事に展開、貫かれたこの作家を私も敬愛してやまない。南さんには昨年の十月に「第68回青森県俳句大会」の選者講師としてお招きを受けた折、草野力丸さんのご紹介でお目にかかった。大島紬を召され、黒髪のゆたかな闊達な女性が南さんで、私と同年とのこと。お酒も強いようで頼もしかった。入会されてはじめてのご投句。もしかするとこの句碑は海辺に建っていた実に大きなもので、「件」の仲間と私達も訪ねた碑ではないかと思う。寒時雨と底光りの言霊が響き合って千空大人の俳句作家としてのスケールをよく伝えてくれている。これは日本海の寒時雨である。



終活を辞書に探して寒に入る

(徳島県)加治 尚山
 就活、つまり就職のための活動から転じて、婚活とか終活の言葉が生れ、よく使われている。加治さんが人生の終末をきちんと送るための終活に心を置いておられるのだ。ダンディな加治尚山さんが電子辞書などをあれこれ引いている。創刊時には五十歳であった人が七十代半ばになるのだということも思う。


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