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熊手売る女に煙草よく似合ふ (神奈川県)岩田 由美 |
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酉の市での作である。由美さんが惚れ惚れと見つめていたその女将さんのいでたちも見えてくる。いまはどこもかしこも禁煙となってしまって、煙草をたしなむ人はめっぽう生きずらい。肩身が狭い。しかしこの女性はノースモーキングなどどこ吹く風。実に粋でカッコいいのである。この一行、どこにも無駄がない。誰にでも詠めるようで詠めない句。 |
木枯しに追はれていつか残されて (石川県)橋本 薫
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人間の哀しみ、生きてゆく淋しさ、人生。そんなものがここに詠みあげられている。追はれていつか残されて。こういう言い方で木枯しを詠み上げた人はいなかった。橋本薫という作家のつぶやきとして独自性があり、かつ説得力があるのだと思う。 |
掃除婦の最後に拾ふくわりんの実 (愛知県)近藤 愛
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作者は県の職員である。掃除婦という仕事に従事する女性をよく見ることがあるのだ。誰も拾わずにとりのこされていたその黄色の実を、その女性はあたりをたしかめ、拾ってもよいと判断していま手にとったのである。近藤愛という四十歳の働く女性のまなざしは鋭くかつあたたかい。 |
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