藍生ロゴ 藍生12月 選評と鑑賞  黒田杏子


蓮を見に行く日も棚田ひと巡り

(新潟県)山本 浩

去る八月三日(日)。私は早起きをして新幹線で湯沢までゆき、ここで磯部遊子さんと合流。ほくほく線に乗って直江津まで。迎えて下さった岩関のぶおさんの車で岩関邸に直行。「藍生にいがた」の皆さんと高田城をとり巻いて埋めつくす蓮を見て、別院通りの割烹旅館宮田屋での蓮見句会。山本さんも小千谷から参加されていた。物静かな山本さんは78歳。大切な棚田を見廻ってのちあの日の句座に就かれたことを知る。そして十月十八日、我が家にとびきりの山本浩夫妻丹精による今年米がとどき、何人もの友人たちにお裾分けの荷を作り、感謝されている。




白露なり妻のクルスの墓の前

(長野県)加村 維麻
86歳の加村さんは現在のところ、東京例会出席者の中の最長老。上田市から毎回参加されている。兜太先生の弟様、金子千侍先生のご紹介で入会されて以来、実に熱心に句作に打ち込んでおられる。ご夫妻はクリスチャン。例会には季節の花を束ねたもの、果物、ときには青首大根などもおみやげに持参される。白露の日、信濃の墓前の加村さんの姿。



虫鳴けり耳鳴りもあり一人なり

(福島県)齋藤 茂樹
百寿者の母上を見送った元町長。この句からは奥会津三島町(桐の里)で独居老人かと読者は思う。実際はご子息一家と広い家屋に暮らしていて、何ごともお嫁さんがすすめてくれる羨ましい毎日。長年撮りためた写真の整理をしながら、亡き夫人の献身に感謝の日々。しかし、この句には味わいがある。後期高齢者の仲間入りをした人の句だ。


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