藍生ロゴ 藍生8月 選評と鑑賞  黒田杏子


白服の衿立てしこと美しきこと

(京都府)滝川 直広

出井孝子さんお別れ会の運営と実行を托された滝川さんのこの四句は美事なだけに切ない。出席者はすべて故出井孝子さんの指名による集いで、京都駅階上のホテルグランヴィアで行われた。出席者がみな出井さんの白いブラウスの美事な着こなしを語ったのだ。「あんず句会」の帰りに出井さんの車に乗せてもらったことがある。滝川さんを自宅まで送るとのことで三人でしばし車中で語り合う。「私はもう間に合わんけど、滝川君には俳人として大成してもらいたい。角川賞でもなんでもとってもらって、そして杏子先生の指導をしっかり受けて、この人大成自立してほしい。私はその能力が彼にはあると思うんです。先生よろしくお願いします。滝川君、分ってるな。いつまでも若くはないよ」  この四句を天上で出井さんは晴れやかにほほえんで享けとめられるにちがいない。




竹落葉生きてをりふし人悼む

(大阪府)宇高 徳子
宇高さんには久しくお目にかかっていない。「あんず句会」にも出席されなくなって長い時間が経過した。しかし「藍生集」への投句を介していつも私はこの人に遭っていた。私たちはお互いに年齢を重ねたけれど、こういうこころに沁みるような句を寄せられる宇高徳子という作者の存在、句友の絆を私は得がたいものと思う。竹落葉の秀吟である。



清明や波打際に稚魚そだち

(滋賀県)永井 雪狼
さきの宇高さんの句と同様、ともかく季語が効いている。雪狼さん夫妻にもしばらくお目にかかっていないが、こういう句を見ると、この作者が常に句作に真剣かつ謙虚にとり組み、己の納得する句に向ってたゆみなく歩を進めておられることがよく分る。淡海を句作のフィールドとして精進をつづける人の句である。耳が遠くなられて句座への参加を遠慮されているともきくが、遠耳のひとは長命という。ますますの秀吟を期待する。


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