藍生ロゴ 藍生4月 選評と鑑賞  黒田杏子


老人と老犬のくる初景色

(埼玉県)寺澤 慶信

老という文字が二回使われている。その文字を享けて下五の初景色がゆったりとやわらかな世界になっていると思う。老人と老犬は互いに心が通じ合っている。つまり二者の絆は長年にわたってしっかりと築き上げられてきているのだ。事実そのものを切りとっているのだと思う。初景色という季語が俄然生彩を帯びて読み手の心にいきいきと立ち上ってくるのは作者の感性と習練のたまものなのだと思う。老人と老犬の尊厳が表現された。



冬将軍疼きはじめる戦傷

(岐阜県)信田 良伯
新しい作者の登場。九十代の半ば。戦場に身を置かれた方である。冬将軍の到来とともに、戦傷が疼き出すのは毎年のことなのだと書かれている。句意は明快。年齢は金子兜太先生と同年位。力のこもった達筆の投句に初めて接して想うことが多かった。



臘八会燭を灯して仮設寺

(岩手県)熊谷トキ子
釈迦が雪山に於て難行苦行を重ねて、十二月八日、鶏鳴を聴き明星を観て悟りを啓いた。臘月八日を臘八会という。私も各地の臘八会に参じてきた。陸前高田に暮らす熊谷さん。昨年七月、気仙沼の俳句大会でお目にかかれた。この句に接して合掌。雪の中の仮設寺。集う人々。燭の灯のゆらぎ。


3月へ
5月へ
戻る戻る