藍生ロゴ 藍生3月 選評と鑑賞  黒田杏子


馥郁と闇のきりたつ里神楽

(兵庫県)今井 豊

里神楽の句として新鮮かつ気品がある。どちらかといえば土俗的な世界が詠み上げられることの多い里神楽。作者は里神楽の行われているその場を包みこんでいる闇のゆたかさ、美しさにこころを奪われたのである。馥郁と闇までは詠めるかも知れない。しかし闇のきりたつと感じとることはむつかしい。これは里神楽の神が乗り移った瞬間に作者の口をついて出た言葉だ。闇のきりたつ、今井豊という俳人の代表句がここに誕生した。



一枚の神等去出の葉となり飛べり

(島根県)原 真理子
原さんの句は近ごろとみにいきいきとである。出雲人として実感のある作品を作られてきているが、一人娘のあかりさんがアイルランドの日本大使館勤務となり、ダブリンに暮らしているので、そちらに出かけてゆくことも多くなっている。そんな経験を重ねて、歴史と地霊の息づく出雲松江の暮らしや祭事、歳時記、季語への関心が深まってきているようだ。実感に支えられた無理のない句。



たくさんのことを忘れて小六月

(岩手県)二階堂光江
病を得て闘病、この人は苦境を乗り切った。あれほど元気で活動していた人が大変な日々を送っていまがある。あきらめたことも数え上げたらきりがない。そんな人がこの一行を書き上げた。実際は忘れられないことが無数にあったのだ。小六月と止めてまことにこの句印象深い。人生観と自然観がぐんと深められて、この句に到達したのだと思う。


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