藍生ロゴ 藍生2月 選評と鑑賞  黒田杏子


デパートの林檎のどれもうつくしく

(東京都)深津 健司

深津さんが目を見張ったのは三越、高島屋それとも伊勢丹。デパートという言葉が冒頭に出てきて、この句実に愉しい。若い人の句ではない。積み上げられた見事な林檎。林檎ってこんなに美しい果物なんだとあらためて眺めて成った一行。考えることなく出合った瞬間に出来た句。その鮮度、臨場感。この作者にとって画期的な作品となっている。



秋光や疊古りたる定食屋

((神奈川県)広本 勝也
 今風な店ではない。しかし、この店のメニューはどれも満足出来る。そんな定食屋。作者のゆきつけのなじみの店なのであろう。秋光や、この上五がいい。疊古りたる、ここもまた心が落ちつく。つまり、作者は年輪を重ねて、その店のよさに身を委ねているのだ。古くても清潔な店で安らげるのだ。



火祭や炎は闇を磨きつつ

(兵庫県)池田 誠喜
 鞍馬の火祭であると思う。火祭という祭は鞍馬以外にもこの国の各地にある。この句に出合ったとき、若いときに、たったひとりで出かけて行った鞍馬の夜を鮮明に憶い出した。そののちも仲間と何回も出かけている。炎は闇を磨きつつ、ここの表現がすばらしい。句友と吟行に出かけたとしても、作者の孤心というものが一句を生み出す前提なのだということをしみじみと思わせられる。


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