藍生ロゴ 藍生1月 選評と鑑賞  黒田杏子


日めくりを今日もめくりて鮭を待つ

(新潟県)斉藤 凡太

藍華賞は本来句集以外の著作ですぐれた作品を発表した会員に差上げる賞である。23周年のつどいで凡太さんに贈られたのは、特例で、句集『磯見漁師』に対する表彰であった。この日、凡太さんは会場に来られない。代理に受賞の言葉を述べた磯部游子さんによれば、11月に入ると網を張って四人で作業をする鮭漁がはじまる。仲間との共同作業故「東京に行くからと勝手には休めない。先生や皆さんによろしく。賞など頂くほどのことはしていません。特別のことはして頂かなくて結構です。ただ俳句は漁師と同様続けてゆきます」とのこと。この秋、凡太さん満八十七歳。米寿を迎えられた。紅藍集・藍生集への投句はもちろん、〈新潟日報俳壇〉黒田杏子選句欄への投句も毎週はがき一枚二句。ただの一度も休まれない。凡太さんは現代日本の俳句作者の鑑であり、私の師である。



白萩のこぼるる道を老いし蟻

(京都府)中村 昭子
 蟻の歩みを見つめて、老いし蟻と言いとめた人はおそらく中村さんがはじめてだと思う。言われてみれば、若々しい働きざかりの蟻もいるし、とぼとぼ、よろよろと進んでゆく蟻もいる。この句、白萩のこぼるる道を。ここがすばらしい。中村昭子一代の秀吟。



捨てし夢あきらめし夢夕花野

(石川県)橋本 薫
 藍生賞」作家として、受賞の言葉を短く述べられたこの人は陶芸家である。亡きご主人と文字通り二人三脚ですばらしい作品を創り出してこられた歳月。文学のみならず、イタリア語を学び、音楽や美術などにも造詣が深かったおふたりであった。漁師の凡太さんと、薫さんのようなアーティスト。「藍生」を私はありがたく誇りに思っている。


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