藍生ロゴ 藍生12月 選評と鑑賞  黒田杏子


桐は実に媼は森になれぬまま

(京都府)河辺 克美

たのしいですねえ。森になろうと志しただけでもその媼を尊敬したくなるのは私だけではない筈。桐は実に、この書き出し、季語のあっせんが絶妙。「藍生」にはすぐれた作家が大勢おられる。創刊二十三周年。あんず句会も足かけ二十八年。その実りは多彩で豊穣。ありがたいことと感謝に堪えない。



人の手を借りず安らぐ盆供養

(大阪府)前田 かずえ
前田さんにお目にかかったことはない。いつも見事な筆跡の投句を介してこの八十九歳の大阪の女性会員の生活感覚に親しんできた。人の手を借りず安らぐ。ハッとする。盆供養である。凛としたこの生き方に学びたい。



秋の虹ひとりでめぐる遊園地

(広島県)秋山 博江
この人は小説を書いている。『水の領域』という作品集を私はときどき開いて愉しむ。作句はことしで開始十周年という。五十代のはじめから俳句を作ってきたのだ。遊園地をひとりでめぐる六十代の女性。秋の虹がなかなか消えない。不思議な世界であるが、この人ならではの魅力がいつもその句にはある。


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