藍生ロゴ 藍生10月 選評と鑑賞  黒田杏子


寂庵につひに行けざり梅雨了る

(岐阜県)島 秋潮

秋潮さんは九十七歳になられた。東京から岐阜に移り住まわれてのち、「いつか寂庵のあんず句会に参加したい」と考えておられたのだ。長い長い俳歴。梅雨了るの下五のあっせんにこの作者の精神の明晰を感受する。秋潮さんと同じ想いで、「あんず句会」の終了を受け止められた会員の方が大勢居られたことを私あての手紙やはがきなどで知らされている。秋潮さんは、現在「藍生集」投句者の最高齢者である。ご健吟をよろこぶ。



ほととぎす君の強さを借して呉れ

(徳島県)瀬戸内 敬舟
敬舟さんはさきの秋潮さんより二十三歳もお若い。寂聴先生の姉上の一人息子。つまり寂聴先生のただひとりの甥に当る人。堂々とこんな一行を詠み上げて笑っているところがいかにも敬舟さんである。



昼寝する妻は千代女と申します

(福島県)川崎 合唱
合唱さんは秋潮さんの十歳下。八十七歳。ことあるごとに合掌されるので、私が合唱という俳号を贈った。千代女夫人にお目にかかったことはない。合唱さんは小山京子さんと四半世紀余りカルチャーの「俳句教室」で勉強をつづけてきている人物。夫人の幸せが想われ、愉しくなった一行である。


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