藍生ロゴ 藍生9月 選評と鑑賞  黒田杏子


踊りつくして海女のごと髪洗ふ

(山形県)石澤 香苗

この踊りは盆踊りなどのそれではない。ことしの「全国藍生のつどい」は去る六月八日(土)・九日(日)、松島海岸を望むホテル「一の坊」で開催された。別項の大会のレポートにあるように、前夜祭に石澤香苗さんが「松島」を舞って全国の句友を歓迎して下さったのである。舞台の上方には日展作家鳥井月清さんの見事な墨筆による「松島」の詞章が草木染の布にしたためられ、掲げられていた。ゆたかな黒髪を解き放ち、ホッとして香苗さんは髪を洗われた。海女のごとくにの中七に情感があふれ、ややに愁いを含んだ石澤さんの美しい面ざしが顕ち上る。



断固たる万緑のあり我のあり

(兵庫県)今井 豊
この句、たしか去る五月十七日(金)の「あんず句会」最終回に投ぜられた作品と記憶する。断固たる万緑のありと述べたのちに我のありと重ねて、新しい状況に対する作者の姿勢と決意、抱負が示されている。



生まれつき動かぬ手足さくらんぼ

(大阪府)向井 ゆたか
向井さんは一九三七年生れ。私の一歳上だ。創刊号より「藍生」に参加されているこの人、重度の障害者である。「あんず句会」には介護の青年につき添われずっと参加され、日経俳壇にも投句されていた。「義務教育も受けてませんよ」と明るく言い切るこの人にいつも私は励まされてきた。「あんず句会」が終了となり、向井さんに会えないことが私には何よりも淋しいことなのである。


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