藍生ロゴ 藍生7月 選評と鑑賞  黒田杏子


桜散る風の意に添ひ雲に添ひ

(高知県)浜崎 浜子

去る四月三十日(火)、浜崎浜子さんは長逝された。この十月のお誕生日で満八十八歳、米寿を迎えられるので、高知の句友たちとそのお祝い会の計画を立てていたところであった。四月三十日で診療は終了。五月十五日閉院の予定ですすめていますとのご連絡を頂いていた。患者数の多いことで知られていた浜崎医院にこの日、大勢の患者さんやかかりつけの人達が訪ねてきた。浜崎医師の指示により「永久休診」の貼紙が玄関と待合室に掲示されていて、先生のお姿は無かった。通夜・告別式は家族(親族)と俳句の仲間だけでということも浜崎さんの意向。供花やお供え一切辞退ということですべて故人の意志が貫かれた。文字通り医業と句業共に現役往生を遂げられた人の、これは「藍生」への最終投句であった。いずれ第二句集『水晶文旦』が出る。その折はぜひお読み頂きたい。



サイタサイタサクラガサイタ年取ツタ

(鹿児島県)椿 石
この作者は近年句作に打ち込んでいる。もともと才能に恵まれていた人であったが、持続力に欠けていた。年取つたとは言え、浜崎さんよりずっと若い。自分を大切に、謙虚に、本気で句作に取り組まれることを望む。



灯せば人還りくる桜かな

(神奈川県)田 正子
浜崎さん、椿石さん、そしてこの田さんと三人三様の桜の句が並んだ。大学教授のご主人と大学生のお嬢さんとの四人の家庭。そんな家をとりまとめる作者らしい幸せな句である。しかし、人還りくるであって帰りくるではない。還りくる人の中には亡くなられた母上やその他、かの世の人々も居られる。そんな深さをもたたえた桜の句の秀吟と思う。


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