藍生ロゴ 藍生4月 選評と鑑賞  黒田杏子


よく枯れてたのしき音をたてにけり

(神奈川県)田 正子

枯れるということは美しさを増すことでもある。よく枯れて、たのしき音をたてている植物。いろいろと思い浮かぶが、たとえば冬柏などもこの句にふさわしいのではないか。冬柏には柏の枯葉、枯柏などの傍題がある。柏は冬になっても、褐色の枯葉をつけたままでいる。大きな葉の柏は寒風に鳴る葉音といい、寒林に立つそのたたずまい、すべて印象的である。柏は炊葉の意で、昔は植物を盛る葉はすべて「かしわ」と呼んだようである。柏餅を包むあのまみどりの葉が枯れ切って風に鳴っている。たのしき音と聴きとめた作者の幸せそうな表情も見えてくる。



おほかたは叶ふべしとて初みくじ

(東京都)糸屋 和恵
そんなめでたいおみくじを引き当てた作者。見事・第一回星野立子新人賞に輝いた。藍生新人賞も受けて頂いたし、角川俳句賞の有力候補でもあった。才能と努力。この人を神さまはよく見ておられたのである。



枯蘆の火を望むまで枯尽し

(滋賀県)永井 雪狼
淡海の枯蘆であろう。湖のほとりに暮らす作者は、この日本一大きく、ゆたかな琵琶湖を題材にした作品を数多く詠み上げてこられた。蘆は枯尽くす。そして蘆火、蘆焼という季語のある通り、火を放たれる日がくるのである。ともかくこの句、その枯の状態がいま火を望むまでに至っていると見てとったところがすばらしい。雪狼俳句の傑作であると思う。作者は対象と一体化している。この中七を得た雪狼さんに敬服する。


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