藍生ロゴ 藍生3月 選評と鑑賞  黒田杏子


切干の歯ごたへ八十代を生く

(岩手県)柴田 綾子

「八十代特集」の俳句篇のような句とも思える一行である。?みしめているものが切干であるところにこの句の味わいと存在感の源がある。柴田さんのすこやかな生き方、ゆたかな人間関係、キリスト者としての敬虔な日常も伝わってくるようだ。読後感がきわめて爽快である。



手刀で横切つてゆく十二月

(北海道)鈴木 牛後
一年の最後、締めくくりの月を手刀をきりながら横断してゆく男性。頼もしい人物であり、読み手を愉快な気分にしてくれる芸のある作者である。みちのく盛岡に柴田さんのような風格ある女性が居られ、北海道に牛飼いのこの鈴木さんが居られる。「藍生」という俳句創作集団のよろしさではないか。



冬銀河列車に母はをさな子と

(富山県)澁谷 達生
幼い子を伴って列車に坐っている母。こんな母子像は格別珍らしいことではない。ありふれた情景である。この句、冬銀河で命を得ているのである。列車の窓の外にひろがる夜の闇、そしてその天上に流れるま冬の濃い銀河。この母と子の旅の背景は読者の想像にすべてゆだねられている。


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