藍生ロゴ 藍生2月 選評と鑑賞  黒田杏子


虫が鳴く人間が聴くこの一と夜

(東京都)田邉 文子

虫の音を聴きわけたり、虫しぐれに心をゆだねたり出来る私達は幸せである。虫の音を騒音と感じる人達もこの地球上には多いのだという。田邉さんのこの句は虫の音をたのしむ私達日本人のこころと人生を一行の空間にあざやかに言いとめたという感が深い。



トンネル開通即ち薔薇祭

(茨城県)斎藤 秋声
一読、胸が拡がる。薔薇の香りと色彩が幸せな気分に誘ってくれる。秋声さんを先達として、みなさんで毎月吟行を重ねておられるけれど、このような秀句はほとんど見ない。初心者の報告的吟行作品になっていることを惜しいと思ってきた。見たこと、出合った事柄を安易に手慣れた季語を入れてまとめた作品が毎月投句されてくる。この際、秋声リーダー以下、作句の原点、初心にたち戻り、もっともっと深く広がりのある俳句づくりに挑戦して頂きたいと切に希っている。



ふるさとの栗名月の栗ごはん

(東京都)野木 藤子
野木さんのふるさとは福島県矢吹町。芭蕉も通って行った道のほとりの集落。三月十一日の影響の残るふるさと。かなしみを抱くふるさとと人と後の月を仰ぎ、栗ごはんを頂く。俳人は句作により、句縁により再生、再起のきっかけを?むことも出来ることをこの一行が示しているように感じる。


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