藍生ロゴ 藍生1月 選評と鑑賞  黒田杏子


鰯雲おいと呼ばれて古稀迎ふ

(京都府)宮永 麻子

 「藍生」もこの秋二十三周年。古稀や傘寿、米寿、卒寿などを迎えられる会員が続々と…。なかでも古希を迎えるという方の投句が多いように思われる。そんな中で、宮永さんのこの句、断然すばらしい。仲むつまじい夫婦。おいと呼ばれていそいそと伝統ある家を守り抜いてきた妻の誇らしい一行。鰯雲の上の句も巧い。近年ぐんぐんと作品の腕を上げてきた作者の代表作と思う。寂庵あんず句会も二十八年目。それぞれにその人生に句作を重ね、投影して詠み上げる力量をしっかりと自分の内に育て上げられたメンバーが多い。今にお嬢さんも大活躍。アーティスト一家の要としての麻子さんは俳人となられた。



稲穂入れ大往生の柩とす

(新潟県)春日 恭子
 佐渡でケアマネージャーとして活動する作者。佐渡に数多いケアハウスに呼ばれ、真夜中に〈おくりびと〉としてのメークその他を担当することも多いとのこと。大往生の柩に稲穂を収めたこの句は読後感が豊かだ。



心満つ稲稔る香の村に棲みく

(新潟県)山本 浩
 山本さんは米づくり一筋の農業者。七十代後半の現在も小千谷で夫人と共に日本一のお米をつくりつづけている。この句、旅行者が稔田のほとりで詠んだ句ではない。刈り取り近い田のほとりに佇って自ら口をついて出た一行であろう。私は磯見漁師の凡太さん、そば打ちの白山さん、そして米づくりの浩さんを「藍生新潟三人衆」として敬意を抱く。


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