藍生ロゴ 藍生12月 選評と鑑賞  黒田杏子


露の世に長生きをしてときめきて

(北海道)宮之内志野

志野さん八十七歳。こんなすてきな句を詠まれていて嬉しくなる。志野さんはもともと歌人。すすき野で人気のあるお店の女将さんであった。NHKテレビで郷土料理、おふくろの味の料理研究家として一世風靡といった存在であった阿部なを先生のお弟子でもあった。志野さんが「藍生」に参加されたのは阿部先生のお引き合わせによる。私は阿部先生晩年の親友ということでいろいろとお教え頂いた。画家の堀文子さんと〈三角の会〉というグループを作っていて、歌舞伎・旅行・講演会などに三人で連れ立って出かけていた。阿部さんは「あんたの八十代をこの眼で見届けたい。残念ながら手持時間が足りないわ」と後進の私を激励しつづけて下さった。志野さんは阿部さんの享年をすでに越えられている。



野の花にみんな名のあるお盆かな

(岩手県)細川 悦子
陸前高田に住んでおられた細川さん。三月十一日は大変な日となった。仙台で暮らしておられる菅原和子さんをリーダーに、「高田句会」を通信で続けておられる。この句に出合って、私は涙があふれた。お盆かなの座五。大震災をくぐりぬけ、生き残られて、野の花にみんな名のある…。この言葉をつぶやく。細川さんも八十代である。



合歓の花いづこも遠く思はるる

(広島県)上手 民子
この作者に私が出合ったのは、もともと日経新聞俳壇・黒田杏子選句欄への投句者としてであった。しばらく投句を見ないと思っているうちに、「藍生」に広島から投句されるようになった。すでに八十代に入っておられる。上手さんの「藍生集」への投句ハガキを手にするとき、日経俳壇に投ぜられていた官製はがきの筆跡をいまも思い出す。


11月へ
1月へ
戻る戻る