藍生ロゴ 藍生11月 選評と鑑賞  黒田杏子


けさ届きたる東京の牽牛花

(高知県)浜崎 浜子

歓声を挙げている浜子先生の様子が目にうかぶ。東京入谷の朝顔市にゆくと、鉢仕立の朝顔をダンボールの箱にきっちり収めて、宅配便で送ってくれる。おそらくその便ではるばる土佐の高知の浜崎医院に届いたのであろう。東京の牽牛花、ここによろこびのこころがこめられている。事実そのものを述べたことでこの一行の鮮度は高まったのだ。



陸・海・空美しき特攻花の満ち

(鹿児島県)椿 石
私の記憶では特攻花は黄色である。よく知覧を訪ねた俳人の作品によく登場する。椿石さんは鹿児島の人であるから、この花をよく眼にされるのであろう。特攻隊、特攻兵士とその名前からイメージの重なってくる花だ。この句、陸・海・空と冒頭に置いたところがすばらしい。美しきは全体に懸っていると見る。



掃苔や髪撫でつけてはは祈り

(東京都)原田 桂子
墓前に祈る人の句は数限りなくある。ははは作者の姑であられるとのこと。合掌の前に、髪を撫でつけた。その女人のたたずまいを嫁である桂子さんは見届けた。その瞬間を一行にとどめたこの句に私は深く感銘をうけた。写生の力であるが、この句は人間の存在の尊さを見つめて、日頃の修練の技がいかんなく生かされて愛の句と成っているのだ。


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