藍生ロゴ 藍生4月 選評と鑑賞  黒田杏子


毎日の言葉を綴り日記果つ

(青森県)山本 けんゐち

一日も欠かさず日記をつけてきている人ならではの句である。昭和59年の秋頃と記憶している。筋ジストロフィーの患者として、難病棟に暮らしていると書かれたこの人から、「俳句の勉強法を教えてほしい」との手紙を受けとった私は「一日五句、月百句を目標に句作を持続してみて下さい」との返信を送った。当時35歳になるところであったこの人もすでに還暦を越え、「俳句とエッセイ」「藍生」の投句をただの一度も休まれたことはない。日記をつけつづけている人は多い。私もその一人であるが、「毎日の言葉を綴り」という上五・中七の境地を獲得している人はどの位存在しているだろうか。秀吟である。



望むこと少なけれども初詣

(岩手県)西島 淺香
 初詣の句として、実に床しい一行である。祈ることひとつ。は、実に強い言葉、さらに家族すべての健康を。震災復興をなどなど、初詣の希いはさまざまであり、この作者のような心もちを表明する句には出合ったことがない。現在只今の作者の心境が静かにやわらかく書かれていて印象ぶかい。



読初や平和賞なる劉暁波く

(群馬県)大塚 荘市
 ノーベル平和賞を授与された中国の平和活動家の著作をこの年の読初の一冊とされた。大塚さんのように大正・昭和・平成を生き抜いてこられた長寿会員のこの句に接して、心が、胸が拡がる心地となった。


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