藍生ロゴ 藍生1月 選評と鑑賞  黒田杏子


来年も秋刀魚を焼いてゐるだらう

(東京都)石橋 玖美子

 化粧塩をしてうまく焼き上げた秋刀魚はおいしい。すだちと大根おろしがあれば、さらにおいしい。安くておいしくて申し訳ないほどの秋刀魚。秋刀魚の句はすでに沢山詠まれている。とは言っても、江戸時代には季語とされていなかった。明治にも詠まれていない。例句はもっぱら現代以降。いくつかの歳時記に載っている例句を見ても、この石橋さんの句は断然すぐれている。ゐるだらうという下五が実に巧い。一日一日、一年一年が特別なものとして意識される年代の作者の作品。単純ではない想いがこめられているので、自然で存在感のある句となっているのである。



ひそやかに千草も色を競ひけり

(茨城県)川崎 柊花
 秩父の吟行句会での作品。一見さりげない句と見えて、とても心に沁みる。こういう句が生まれるのだから、秩父のプロジェクトは成功だと思う。藍生賞作家の実力が輝いている佳吟だと思う。



秋灯や明日の吾に日記書く

(長崎県)渡部 誠一郎
 秋灯と日記、これは誰でも詠める。しかし、その日記を書くのは、明日の吾にだと言われると、ちょっと考えさせて下さい、となる。作者は毎日日記をつけているのである。そしてその日の日記は明日の、翌日の自分を支えるもの、つぎの日の自分のために今日の日記を記すのであると表明されて、あらためて渡部医師の生き方に納得、敬意を深めてゆくのだ。


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