藍生11月 選評と鑑賞 黒田杏子 |
浴衣着て顔出す女へんろかな (徳島県)熊谷 一彦 |
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たのしい句である。作者は遍路行を重ねている。日中歩きへんろをしていた女人が、宿で夕食時にでも浴衣姿で現れたのだ。ちょっとびっくり。しかし、和やかに話の座に加わったのではないか。熊谷一彦の遍路作品の中では異色の句である。けだし、かなりの年月を重ねて「行」を継続しているからこそ恵まれた一句であろう。いきいきとしているところ、言葉のあっせんに実のあるところ、収穫の作品である。 |
栞して今日はここまで敗戦忌 (東京都)安達 潔
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終戦日とか書かず敗戦日とのみ書く人も多い。この句は敗戦忌と記されている。大冊の本でも読みすすんでいたのであろうか。読み出すときりがない。止まらなくなってしまう本なのであろう。戦争に関する本であったのかも知れない。歴史書、ノンフィクションいろいろあるだろう。敗戦日ということで一区切りをつけたところに臨場感が出たのだ。 |
踊りつつ真闇に消えてゆくつもり (広島県)河野 路子
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この作者らしい作品である。踊が季語であるが、自分の人生の終末について、サラリと言切っているところが個性的である。たのしく、はなやぎを以ってこの世を立去ることが出来たらと希う人は多い。しかし、この作者のように鮮やかにプランを発表することはなかなか出来ない。励まされる句ではないか。 |
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