藍生ロゴ 藍生7月 選評と鑑賞  黒田杏子


館長の龍馬に似たり花の雲

(高知県)渡邊 三度栗

 どこの館長なのかは分からない。もしかすると龍馬記念館の館長なのではないか。とごく自然に思わせてくれるところが面白い。そのキーワードは花の雲である。壮大なこの季語の働きによって、1句の世界がいきいきと大らかに展開してくるのである。胸がひろがるという心地を覚えるのである。龍馬もその館長さんも土佐人として、闊達に朗らかに笑顔を読み手に向けてくれている。愉快だ。



遠山桜治せぬ人に触れてきし

(愛知県)三島 広志
 作者は人の身体に触れて、その患者を快方に向かわせるという治療者である。その人はしかし、治る見込みはないのである。作者の側から言えば、それは治せぬ人なのである。遠くの山に白々と咲いている山桜の姿。作者はいま別れてきた患者を想いつつ、その花の遠い白さをしばし眺めて無念なのである。



春の川家族思ひて渡りゆく

(神奈川県)名取 里美
 この作者には息子を詠んだ句が多い。二人の男の子を育ててきて、長男はこの春大学生となった。家族思ひて、この中七がいい。名取里美という俳人の作品として残るだろう。夫も子供たちも、それぞれに元気で忙しい。主婦してその一家の要である作者。春の小川がとても生きて、この句をじっくりと支えている。


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