藍生ロゴ 藍生3月 選評と鑑賞  黒田杏子


たましひの足にあつまる寒さかな

(東京都)安達 潔

 たましいはどこに居るのか。胸の裡、心の奥底、頭脳の内。答えは出ない。しかしこの作者は足にあつまると言い切っている。寒さかなと止めているのも説得力があって新鮮である。タクシードライバーという職業は寒さ、暑さがことに身体にひびくのではないか。ドライバーにとって、足は手とともに重要な部位である。安達潔という作家の俳句作品として意欲作であることは間違いがない。そして問題作として論議される価値のある一行だ。



狩人の車に一つ空の檻

(山梨県)山本 陽子
 湘南の地から山梨に移り棲んで、その土地の景観にもなじんできている作者である。小渕沢のあたりを散策していると、こんな場面に出合うのかもしれない。狩師が車に積んでいるのは檻。まだ獲物は入っていない。何がその檻に入るのだろう。猟期というものをこういう角度から詠んだ句も興味深い。



遥かなるものに近づく狐火と

(栃木県)井上 薫子
 作者の住むあたりでは狐火はそう珍しいものではない。私も子供の頃に当時の那須郡に暮らしていて、狐火という言葉に親しんだ体験を大切にしている。この句は狐火を遥かなものとして眺めているのではなく、狐火とともに、狐火を伴って遥かなるものにいま近づいてゆくのだという一句の構造が面白い。狐火の存在感がうまく出ていると思う。


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