藍生ロゴ 藍生2月 選評と鑑賞  黒田杏子


生き残るたび秋天の深まりぬ

(和歌山県)慈幸 洋藏

 高野山上に暮らし、長い年月闘病をつづけている作者。秋天、その蒼さも深さも高野のもの。誰よりも優しく、誰よりも謙虚に生きて句作を重ねている人のつぶやきである。



月光の匂ひと言ひて父眠る

(京都府)植田 珠實
 父と子の友情がさりげなく詠み上げられていて、読み手も幸せになってくる。月の光の匂いだよと言った父親はしばらくして、娘に見守られて安らかに寝落ちてゆく。その言葉を過不足なく理解し、よろこんで聴いてくれる娘であることをよく知っている父なのだ。そんな会話が交わせる二人の友愛の一行。



中秋の名月湖に月の道

(京都府)中村 昭子
 この湖は琵琶湖である。作者は名月の晩に淡海のほとりに身を置いた。湖上に月が照り映えて、月の道がみとめられた。どこにも無理がない。作為のない作品はこの作者ならではのもの。湖上の月の道のかがやきをいま私たちも眼前にしている。


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