藍生ロゴ 藍生2月 選評と鑑賞  黒田杏子


極楽と地獄身の内冬遍路

(徳島県)岡村 藍

 一見理屈が勝っているようにも感じられるが、この作者の句であれば安んじて共感できる。「藍生」の長期のプログラム「四国遍路吟行」は藍さんのご主人岡村圭真先生のご指導とお励ましによって、無事八年間の行を完遂出来たのである。スタートして間もない頃、日和佐の宿で皆で特別レクチュアを頂いたこと、折々に特別講義や空海の言葉についての貴重な文献等を私は賜ってきた。作者は何度も札所を巡拝されている。檀家の方々と共に。また個人でも。源久寺を守りつつ、お遍路を重ねつつ、古稀七十歳を迎えた人の堂々たる一行である。身の内が極め手だ。



散るときをよろこびて散る朴落葉

(大分県)秋好 山好
 朴の落葉は大きくて見事だ。さまざまな落葉の中でも独特の尊厳をそなえているように思われる。朴の若葉も美しい。朴の花の芳香とたたずまいもすばらしい。山好さんのこの句、いかにも作者の自然観と人生観を示しているようで心憎い。山好・すみゑご夫妻を訪ねた藤井編集長のリポートは好評であった。こころのゆたかさのあふれ出ている句だ。



宵月や鴉は山へ鶴は田へ
(鹿児島県)三嶋 幸雄
 羨ましい環境に作者は暮らしている。鴉は山へ、という言葉は出ても、下五の鶴は田へという情景にはなかなか出合えない。飛来して越冬する鶴が保護区の田んぼに帰ってくる。宵月やの上五もごく自然に置かれている。ともかく三嶋さんは勉強家。句を詠むだけでなく、幅広く読書をしている。その積み重ねが近ごろのこの人の作品をのびのびとゆたかに、存在感あるものにしているのだ。


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